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東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)38号 判決

原告

ポラロイド・コーポレーシヨン

被告

特許庁長官

主文

特許庁が昭和50年審判第8989号事件について、昭和55年10月1日にした審決を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  原告

主文同旨の判決

2  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第2請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「積層写真製品」とする発明(以下「本願発明」という。)につき、1968年(昭和43年)7月22日アメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和44年7月22日特許出願をしたところ、昭和50年6月24日拒絶査定を受けたので、同年10月21日審判を請求した。特許庁は、これを同年審判第8989号事件として審理し、昭和53年8月16日出願公告をしたが、特許異議の申立があり、昭和55年10月1日「本件審判の請求は成り立たない。」(出訴期間として3か月を附加)との審決をし、その謄本は同年10月15日原告に送達された。

2  本願発明の特許請求の範囲

支持層、像記録要素、不透明化剤の中間層、前記像記録要素から色像提供材料の拡散により形成される色転写像を含む受像要素、および透明支持層とを順に有し、前記像記録要素および受像要素は外側に配置された前記両支持層と共に非分離のユニツトを形成するように積層され、前記色転写像は、前記要素の一端に設けられた破壊可能な容器から処理剤を配布することによつて形成される色拡散転写写真製品において、前記両支持層は水蒸気に対して比較的不透過性であり、かつその間にはされまた部分に対して該写真製品をとりかこむ雰囲気に関する2つのの障壁を形成し、両障壁は湿気にさらされた時同一の特性および挙動を示すことにより、写真製品中の湿気の量や分布状態に関係なく平坦性を保つことを特徴とする前記色拡散転写写真製品。

3  審決の理由の要点

1 本願発明の要旨は前項のとおりである。

2 これに対し、本願の優先権主張日前の出願に係る特公昭46-16356号公報(特願43-15330号、出願昭和43年3月9日、出願公告昭和46年5月4日、特許第627254号)に記載された発明(以下「先願発明」という。)の要旨(特許請求の範囲)は、

「1対の並置した加圧具の間を通すことによつて処理されるようになつており、必要欠くべからざる層として、寸法的に安定な層と、ハロゲン化銀乳剤の現像の結果として第1のpHでアルカリ中で可溶性かつ拡散性である色素像形成物質を与える化合物と組合されている感光性ハロゲン化銀乳剤層と、受像層と、第1のpHを有する処理溶液のpHを色素像付与物質が実質的に不溶性かつ非拡散性となる第2のpHまで下げるに充分な酸性化基を含む中和層と、および寸法的に安定な透明な層と、これらの層を固定した関係に保つ留具とを含む集成構造物よりなる感光要素と、第1のpHのアルカリ性処理溶液を保有し感光性要素の前縁にそつて固定され拡がつており且受像層とそれに隣接する感光性ハロゲン化銀乳剤層との間にその保有液を一方向だけに解放するようになつている破ることのできる容器と、受像層とそれに隣接する感光性層との間に設けられているか或は上記アルカリ性処理組成物中に配合されていて前記の色素像形成物質を生じる化合物をマスクするに充分な量の不透明化剤とよりなるカラー拡散転写写真フイルム単位。」であると認める。

3 本願発明と先願発明とを対比すると、両者は、色拡散転写写真製品の構成を表現する記載に差異があるけれども、支持層、像記録要素、不透明化剤の中間層、前記像記録要素から色像提供材料の拡散により形成される色転写像を含む受像要素、及び透明支持層とを順に有し、前記像記録要素及び受像要素は外側に配置された前記両支持層と共に非分離のユニツトを形成するように積層され、前記色転写像は前記要素の一端に設けられた破壊可能な容器から処理剤を配布することによつて形成される色拡散転写写真製品である点で一致しているものであるが、(1)本願発明のものでは、両支持層は水蒸気に対して比較的不透過性であり、かつその間にはさまれた部分に対して写真製品をとりかこむ雰囲気に関する2つの障壁を形成し、両障壁は湿気にさらされた時同一の特性及び挙動を示すことにより、写真製品中の湿気の量や分布状態に関係なく平坦性を保つものであるのに対して、先願発明のものが、両支持層が寸法的に安定なものであるとしている点、(2)先願発明のものが、1対の並置した加圧具の間を通すことによつて処理されるようになつている点、及び(3)先願発明のものが、第1のpHを有する処理溶液のpHを色素像付与物質が実質的に不溶性かつ非拡散性となる第2のpHまで下げるに充分な酸性化基を含む中和層を有している点で、一応相違が認められる。

4  そこで、前記の相違点について検討してみると、

(1)の点については、先願発明の明細書をみるに、寸法的に安定な支持層を構成する物質として塩化ビニル重合体、エチレングリコールテレフタール酸から導かれた重合体フイルムなどのポリエステルも使用できることが記載され、また本願発明においても明細書中に支持層を構成する物質として上記と同様のものが用いられることが記載されていることから、先願発明において上記の物質を両支持層として用いた際には、水蒸気に対して比較的不透過性であり、かつその間にはさまれた部分に対して該写真製品をとりかこむ雰囲気に関する2つの障壁を形成し、両障壁は湿気にさらされた時同一の特性及び挙動を示すことにより、写真製品中の湿気の量や分布状態に関係なく平坦性を保つているものと認められる。してみれば、本願発明と先願発明とは同じ構成を有し、この同じ構成にもとづいて同じ効果を生じているものと認められる。

(2)及び(3)の点については、本願発明のものにおいても明細書の記載をみるに、上記の(2)及び(3)に示された構成が存在していることが明らかである。

5  従つて、本願発明は先願発明と同一のものと認められるので、特許法39条1項の規定により特許を受けることができない。

4  審決の取消事由

審決の理由の要点1ないし3は認める。同4のうち相違点(1)に対する判断は争うが、相違点(2)、(3)に対する判断は認める。同5は争う。

本願発明と先願発明とは以下に述べるとおり、それぞれ発明の解決すべき技術的課題(目的)、右技術的課題を解決するための手段(構成)及びその奏する効果の何れにおいても異なる別個の発明である。しかるに、審決はこのような両発明の各相違点を看過し、また、発明の同一性についての解釈を誤つた結果、本願発明は先願発明と同一の発明であるとの誤つた判断をしたものであるから、違法として取消されるべきである。

1 目的の相違について

(1)  本願発明は、特許請求の範囲の記載からも明らかなとおり、「写真製品」に係る発明である。ここに写真製品とは、写真フイルムユニツト(先願発明においては、これを「写真フイルム単位」と呼んでいる。)が撮影に使用された後、即ち写真フイルムユニツトが写真装置(カメラ)内において露光と現像処理とを受け、写真装置から抽き出されて後、保存され観賞される状態に置かれた製品を指している。

この点について、本願明細書の発明の詳細な説明の項には、①「本発明の像含有積層品(現像によつて像の形成された積層構造の写真製品を指す。)は、粘重アルカリ性水溶液を、フイルムユニツトの外側支持層の中間の薄い層の中に分配されることによつて作られる。水は構造物の積層により種々なる程度に吸収される。その結果、液体の分布および層の膨潤は均一ではないだろう。さらに積層内に於ける水の量的分布は、処理ならびに像形成が進行し完了に達するに従い、さらに処理後も、例えば構造物内の水分の移動や蒸発によるなど周囲大気と構造物間の水分の移動などの理由で、時間と共に変化するであろう。この種のタイプの従来技術の製品、特に、従来法に従い形成された色転写像を含有する製品は各種層の浸透性並びに膨潤性の差違および積層内における水分含有量並びに分布の変化により、変形あるいは、ゆがみ、曲がりやそりあるいはしわ等を生ずることが知られている。本発明は、積層化された像含有製品の変形やゆがみが防止できるという発見に関するものである。」(甲第2号証5頁10欄26行~43行)と記載され、また、②「本発明製品の製造に使用するのに適当なフイルムユニツトを第1図から第7図を引用し説明する。」(同6頁11欄35行~37行)と記載された上本願図面として、第1図に露光前の写真フイルムユニツトを、第2図、第3図に露光段階のそれを、第4図、第5図に現像処理段階のそれを、それぞれ図示した上、現像処理を終つて写真装置から抽き出されたものを「生成物」として第6図、第7図に図示している。

そして、このような記載から分かるように、本願発明に係る写真製品となるべき写真フイルムユニツトは、いわゆる非分離型の写真フイルムユニツトであつて、写真装置内において現像処理を受け、写真装置から抽き出され、写真製品となつた後にも、現像処理に用いられた水性処理液がそのまま写真製品の積層間に残留している。その結果、何らかの手段を講じない限り、該写真製品は、前記のとおり、各種層の浸透性や膨潤性の差異及び積層内における水分含有量やその分布の変化により、ゆがみ、曲がり、そり、あるいはしわ等の変形を生ずる。しかも、写真製品の積層間における水の量的分布は、例えば構造物内の水分の移動や蒸発、周囲大気と構造物間の水分の移動等の理由で時間と共に変化する。

そこで、本願発明は、写真フイルムユニツトが写真製品となつて後に、該写真製品が時間の経過、周囲の環境の変化にも拘らず、写真製品中の積層に残存している水性処理液や周囲の大気によつて右に述べたような変化を受けず、写真製品が永く保存観賞に耐えるには、いかなる構成が用いられるべきであるかということを解決すべき課題とし、これを解決した発明なのである。

(2)  これに対し、先願発明はその発明の要旨からも明らかなとおり「写真フイルム単位」(写真フイルムユニツト)に係る発明であり、写真製品に係るものではない。

先願発明は、写真フイルムユニツトが写真装置に内臓され、露光及び現像処理を受け、写真製品から抽き出されるに至る間に、いかにして露光を適確かつ完璧に行なうか、いかにして均質に現像処理液を積層内に分布させ、完全に現像処理を施すか、また、いかにして確実にかつフイルムユニツトに損傷を与えることなく、これを写真装置から抽き出すかということを技術的課題とする発明である。

(3)  以上述べたところを要約すれば、本願発明は写真製品に係る発明であることから、写真フイルムユニツトが写真製品となつた後に時間の経過や周囲の環境の変化にもかかわらず永く保存観賞に耐えるようにするにはいかなる構成を用いるべきかを技術的課題(発明の目的)とするものである。

これに対し、先願発明は写真製品に至るまでの写真フイルムユニツト(写真フイルム単位)に係る発明であることから、写真フイルムユニツトが写真装置に内蔵され、露光と現像処理を受け右写真装置から抽き出されるまでの間において、露光及び現像処理を適確に行い、また写真フイルムユニツトを写真装置内から確実に抽き出すのにはいかなる構成を用いるべきかを技術的課題(発明の目的)とするものである。

従つて、両発明は解決すべき技術的課題(発明の目的)を異にしているところ、審決はこれを看過している。

2 構成の相違について

(1)  本願発明は、1の(1)に述べた技術的課題を解決するために、写真製品即ち積層品が「複数個の異種層で出来ているとしても、全体がサンドイツチ構造に具体化された単一親水性層と考え、この像含有層を水分に対し比較的不浸透性であり、水分によつて非膨潤性の外側支持層の間にサンドイツチにし、像含有層の境界を積層の境界に対し対称な構造にすれば、積層は平らなままでおり、ゆがんだり、しわがよつたり、変形したりしないという発見」に基づいて完成された発明であり、その特許請求の範囲の後段に記載のとおり、両支持層を共に「水蒸気に対して比較的不透過性」であるべきものとし、しかも、「湿気にさらされた時同一の特性および挙動を示す」べきものとし、かつ、両支持層が、単に写真製品の形状を保つというだけの意味における支持層ではなくて、両支持層に挟まれた積層部分と外部雰囲気とを隔離する意味での「障壁」であるべきものとして構成し、それによつて、「写真製品中の湿気の量や分布状態に関係なく平坦性を保つ」べきものとしたのである。

本願発明の写真製品となるべきフイルムユニツトの積層は、種々の異なる役割の層からなるものであり、一方からのみ露光されることからも明らかなように、両支持層に対して対称構造の構成ではない。また、現像処理に用いられ積層中に展開された処理水溶液の分布並びにその経時変化も決して一様ではない。従つて、右のように積層品たる写真製品全体を「単一親水性層」と考える着想は、積層品の内部構成に着目すれば、決して容易に思いつくものではないのである。

(2)  これに対して先願発明の明細書又は図面には、水蒸気に対して同一の物性、挙動を示す素材を両支持層として使用しなければならないとする記載のないことはいうまでもない。そればかりでなく、先願発明の明細書には、「積層物の残りの層が特定の層がなくても、その層の機能をはたすようならば、たとえば積層物の残りの層が必要な寸法的安定性と光線フイルター性をもつ場合などには、前記の層のうちの1つ或はそれ以上を必要としないことは明らかであろう。」(甲第3号証22欄7行~12行)と記載されており、フイルムユニツトの積層における他層が寸法安定性を持つ場合には、「寸法的に安定な層」を独立に設ける必要のないことを明らかにしている。このように、「寸法的に安定な層」に代用された他層が、今1つの「寸法的に安定な透明な層」と同一の物性を示すものでないことはいうまでもない。そして、このようにして得られた写真製品は前述のとおり、ゆがみ、曲がり、そり、しわ等の変形を生ずる。

ところが、先願発明にあつては、このような欠点を回避することについて、その明細書には、「好ましい態様における処理組成物は、組成物の展延を容易にしかつ分布後積層物の構造的に安定な層として展延された組成物を保持するために前記の造膜性増粘剤を含んでいるが、しかし組成物の成分としてかかる増粘剤を用いることは必要かくべからざるものではない。後者の場合組成物に含まれる溶媒、即ち水などの濃度は、積層物の構造的な完全性に悪影響を与えないためにまた積層物をつくる層が処理中および乾燥中に積層物を形成する層中に望ましくない寸法的な変化をおこさずに溶媒を容易に調節し消散させるために、望ましい転写法をおこなうに必要な最小量であることが好ましい。」(同号証20欄26行~39行)と記載されている。

この記載の要旨は、積層中に分布した水性処理液が積層物の構造的な完全性に悪影響を与えることとなるので、これを避けるためには、それ以前に「乾燥」させて水性処理液を「消散」させねばならないが、それを迅速に行なうためには、使用される水性処理液は「必要な最小量」であることが好ましいということにある。

このような記載から明らかなように、積層中に滞溜している水性処理液によつて写真製品が変形を生じることを避けるためには、使用される水性処理液の量を能う限り少量にして、これを速かに写真製品外に蒸発せしめて早く乾燥させようとすることが、当時の技術常識であつたのであり、先願発明はこのような技術常識に立脚するものである。

このような技術常識及び先願発明の明細書の記載によれば、先願発明の両支持層である「寸法的に安定な層」、「寸法的に安定な透明な層」とは、少くともその一方の層は水分透過性を有するものでなければならないものであることは明らかである。

(3)  右(1)、(2)に述べたところによつて明らかなとおり、本願発明は、先願発明が前提とした技術常識に反して、両支持層を障壁として用い、その内部積層間に水性処理液を封じ込めるという構成を用いることによつて従来の写真製品における前記の技術的課題を解決したものである。

(4)  審決は、先願発明においても、両支持層は寸法的に安定なものであるとし、先願発明における寸法的に安定な支持層を構成する物質の例示と、本願明細書における支持層を構成する物質の例示とが一部重複していることから、先願発明において上記の物質を両支持層に用いた場合には両発明は同一の構成のものとなると認定しているが、前記のとおり、先願発明は、現像処理によつて積層間に展開分布された水性処理液をできる限り速かに写真製品外に蒸発せしめて早く乾燥せしめるという思想に立脚する発明であるから、両支持層に本願発明の要件を具えたものを用いるという構成は、含まれないのである。即ち、先願発明の明細書には、両支持層が共に水蒸気不透過性を有するのみならず、水蒸気に対する物性や挙動が同一でなければならず、しかも両支持層が積層部分の外部雰囲気に対する障壁でなければならないとするような構成については何らの開示も示唆もされていない。

3 効果の相違について

(1)  本願発明は、前記2に述べた構成を採用したことにより、明細書に③「従つて本発明の目的は製品内の水分の量または分布の変化による変形に耐え、平坦なままでいるような前記タイプの写真含有製品を提供することである。」(2欄32行~35行)と記載されているとおり、従来の写真製品においては、避け得なかつた経時的な変形或いはゆがみ、曲りやそり或いはしわ等の発生を生じることなく、永く平坦性を保つという効果を奏することができるものである。

(2)  これに対して、先願発明は、写真フイルムユニツトが写真装置内において露光を適確に行ない、また均質に現像処理液を積層内に分布させて、好ましい現像処理を施し、更に確実にフイルムユニツトを写真装置から抽き出すという効果は奏しても、本願発明の前記の効果を奏し得る発明ではない。

従つて、両発明はその効果を異にするものである。

(3)  被告は先願発明の明細書に本願発明における支持層と同様の物質を用いることが例示されていることから、これを用いれば先願発明も本願発明の前記効果と同様の効果を生ずる旨主張する。

しかし、先願発明は右のような物質を両支持層に共に用いる本願発明の要件を備えているものではないことは2に述べたとおりであるから、被告の右主張は誤つている。なお、被告は先願発明の支持層が経時的な変形を受けない旨主張するが、先願発明の寸法安定性は1に述べたところから明らかなとおり、写真撮影時及びフイルムユニツトを写真装置から抽き出すに際しての寸法安定性であつて、決して本願発明の写真製品において経時的な変化に耐えるとの意味における寸法安定性ではないのである。

4 発明の同一性の解釈の誤りについて

審決は、本願発明と先願発明とが構成要件を異にすることを認めながら、先願発明の写真フイルムユニツトを構成している2つの寸法的に安定な支持層に、先願発明の明細書に例示されている塩化ビニル重合体、エチレングリコールテレフタール酸から導かれた重合体フイルムのごときポリエステルの何れかを選び、かつ、それを両支持層に共に用いた場合には、本件発明と同一の構成のものとなるとして、本件発明は先願発明と同一である旨認定した。

しかし、先願発明は(1)1対の並置した加圧具の間を通すことによつて処理される写真フイルムユニツトであること、(2)第1のpHを有する処理溶液のpHを色素像付与物質が実質的に不溶性かつ非拡散性となる第2のpHまで下げるに充分な酸性化基を含む中和層を有すること、(3)第1のpHの処理溶液を受像層とそれに隣接する感光性ハロゲン化銀乳剤層との間に配布することを発明の構成に欠くことのできない事項としているのに対し、本願発明はこれらを必須の構成要件としていない点で先願発明よりも広い特許請求の範囲を有している。

特許請求の範囲につき、このような関係にある2つの発明は、たとえ両者間に実施の態様に重複する点があつても、両発明は同一ではない。(最高裁昭和50年7月10日判決(審決取消訴訟判決集同年481頁)、東京高裁昭和31年12月11日判決(同判決集同年759頁)、同昭和42年1月19日判決(同判決集同年87頁)参照)

第3請求の原因に対する被告の認否及び主張

1  請求の原因1ないし3の事実は認める。同4のうち、本願明細書に①ないし③の記載が、また先願発明の明細書に、の記載があることは認めるが、その余は争う。

2  原告主張の審決取消事由は以下主張のとおり失当であり、審決に違法の点はない。

1 目的の相違について

本願発明と先願発明とはその目的即ち技術的課題において差異がない。

先願発明も解決すべき技術的課題として取り上げているのは、露光と現像処理とを受けた処理ずみの拡散転写像を含有する写真フイルム単位を、いかにして保存し観賞に耐えるものにするかにある。

このことは、先願発明の明細書に、「色素転写像形成後も受像要素とアルカリ性処理組成物と感光性要素とが接着したままに保たれる型のフイルム単位……をつくるのに固有の問題が、以下くわしく説明する物理的パラメーターに従つてフイルム単位を製造することにより全く予想外に簡単かつ効果的に除かれうることが発見された。特に、後に記載する色彩拡散転写法によつて予期しない良好な安定性その他の性質の色素転写像をつくるに特に適した集積写真フイルムが必要欠くべからざる層として……寸法的に安定な層と、……感光性ハロゲン化銀乳剤層と、受像層と、……中和層と、および寸法的に安定な透明層とを有する積層物よりなる感光性要素を含めてつくられることが予期せずに発見された。」(甲第3号証、11欄14行~36行)と記載されていることから充分にうかがうことができる。

2 構成の相違について

(1)  先願発明の写真フイルム単位は、特許請求の範囲に「必要欠くべからざる層として、寸法的に安定な層と、……寸法的に安定な透明な層と、……」からなる旨記載されている。このことから明らかなとおり、先願発明は「寸法的に安定な層」及び「寸法的に安定な透明な層」を設けることが必須要件とされているのである。従つて、先願発明において、一方の層が寸法安定性をもつ場合に他方の層を独立に設ける必要がないと解すべきものではない。先願発明の写真フイルム単位は、現像処理後の画像観賞、そして貯蔵に耐えるものであるから、この写真フイルム単位の寸法的に安定な層及び寸法的に安定な透明な層は、写真製品において経時的な変化に耐えるという意味での寸法安定性を有するものである。

(2)  原告は、先願発明の明細書におけるの記載を引用して、先願発明は、現像処理によつて積層間に展開分布された水性処理液を出来る限り速かに写真製品外に蒸発せしめて早く乾燥せしめるという思想に立脚する発明であると主張する。

しかし、右の記載中で取上げている写真製品は、同明細書の18欄11行~20欄5行に記載されている実施例、即ち寸法的に安定な透明な層として3-酢酸セルロースを用いた場合についての記載にとどまるものである。先願発明の明細書には、「寸法的に安定な層」及び「寸法的に安定な透明な層」として、塩化ビニル重合体やエチレングリコールテレフタル酸から導かれた重合体フイルムのごときポリエステルを用いる場合についても記載されている。そして、先願発明でも「寸法的に安定な層」及び「寸法的に安定な透明な層」として、このような塩化ビニル重合体及びエチレングリコールテレフタル酸から導かれた重合体のフイルムなどのポリエステルが用いられた場合には、前記物質で構成された両層は、水蒸気に対して比較的不透過性である。

この点を更に詳しく述べると次のとおりである。即ち、乙第1号証(「MODERN PLASTIOSENOYOLOPEDIA 1967, September 1966\Vol-ume 44. No. 1A、538頁~541頁)には、ポリ塩化ビニルの水蒸気透過率が、硬質のもので0.35乃至2.0、非硬質のもので2.0乃至10.0(gm/m2/24時間/ミリ厚さ、25度c)、ポリエチレンテレフタレート(エチレングリコールテレフタル酸から導かれた重合体のフイルムなどのポリエステルに相当する物質)の水蒸気透過率が、1.7乃至1.8(gm/100in.2/24時間/ミル厚さ、25度c)であることが記載されている。

この水蒸気透過率の数値は、従来より写真フイルムの支持体(支持層)として使用されている、セルロースアセテートの水蒸気透過率が、3000(gm/100in.2/24時間/ミル厚さ、25度c)、475乃至1200(gm/24時間/ミリ厚さ、25度c)であり、またセルローストリアセテートの水蒸気透過率が、2000(gm/100in.2/24時間/ミル厚さ、25度c)、750(gm/m2/24時間/ミリ厚さ、25度c)であるものと比較して小さいものである。従つて、ポリ塩化ビニル重合体やエチレングリコールテレフタル酸から導かれた重合体フイルムのごときポリエステルは、水蒸気に対して比較的不透過性である。

(3)  先願発明でも、前記物質からなる両層をもつて写真フイルム単位を取り囲む外部雰囲気に対して障壁を形成していることは明らかである。そして、水蒸気に対して比較的不透過性という特性を前記両層が有することから、湿気に対して同一の特性及び挙動を示すものであるし、また、前記両層は寸法的に安定なものでもあるから、写真フイルム単位中の湿気の量や分布状態に関係なく、平坦性を保つているといえる。

一方、本願発明では先願発明における前記物質からなる寸法的に安定な層が元来有している水蒸気に対する特性を具体的な表現をもつて記載しているにすぎないものである。なお、本願発明において用いられる両支持層について、本願明細書には、④「本願発明では、水含有、像含有層と大気との間の対称的障壁は、水の存在下で寸法安定性を生ずるような物性を有する限り実質的に同一と考えられる各種の異なる支持層を包含するものである。」(甲第2号証17欄29行~33行)との記載があり、先願発明における「寸法的に安定な層」及び「寸法的に安定な透明な層」が本願発明における支持層として使用できることを示す記載がある。

(4)  以上のとおりであるから、本願発明と先願発明とは、両支持層の構成が同一である。

3  効果の相違について

先願発明の明細書には「寸法的に安定な層」及び「寸法的に安定な透明な層」として、本願発明における支持層と同様の塩化ビニル重合体、エチレングリコールテレフタル酸から導かれた重合体のフイルムなどのポリエステルを用いることが例示されており、これを用いた場合には先願発明も本願発明におけると同様に経時的な変形即ちゆがみ、そり、しわなどの発生を生ずることのない永く平坦性を保つ写真製品を得ることができる。

従つて、両発明の作用効果に差異はない。

4  発明の同一性の解釈について

本願発明の実施態様が先願発明における特許請求の範囲に記載の構成要件と同一である以上両発明は同一である。原告の引用する判例はいずれも本件とは事案を異にし関係がない。

第4証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

1  請求の原因1ないし3の事実、審決の理由の要点のうち1(本願発明の要旨の認定)、2(先願発明の要旨(特許請求の範囲)の認定)、3(両発明の一致点と相違点の認定)及び4の相違点(1)ないし(3)に対する判断のうち(2)、(3)に対する判断並びに請求の原因4のうち、本願明細書及び先願発明の明細書にそれぞれ①ないし、③及び、の記載があることは、いずれも当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の審決取消事由について順次検討する。

1 目的の相違について

(1)  まず、本願発明の目的について検討する。

本願発明の特許請求の範囲が請求の原因2のとおりであること、本願明細書には原告主張の①、②の記載があることは前叙のとおり当事者間に争いがなく、これらの事実と成立に争いのない甲第2号証(本願発明の特許公報)によると、本願発明は、写真装置(カメラ)内で露光、現像処理が行われて右写真装置から抽き出されるとそのまま観賞の対象となるいわゆる非分離型写真の写真フイルムユニツトにおける「写真製品」を発明の対象とするものであること、右の「写真製品」とは、右写真フイルムが撮影のために使用された後即ち写真装置(カメラ)内において露光と現像処理が行われて写真装置から抽き出されて後保存、観賞される状態におかれた製品を意味するものであること、このような非分離型の写真フイルムユニツトは、両支持層及びこれに挟まれた中間部の層からなり、この中間部の層もまた多層構造からなるものであるが、露光、現像処理が行われて写真製品となつた後においてもこの中間部の層における処理液(現像処理に用いられた液)がこの中間部の積層中に残留しているために、そのままでは右中間部の各種層の浸透性や膨潤性の差異、積層内における水分の含有量やその分布状態及びその経時的変化が一様でないために写真製品にゆがみ、そり、しわ等の変形を生ずることが避け難いこと、そこで本願発明は、写真製品におけるこのような変形を防止し永く保存観賞に耐えるのにいかなる構成を用いるべきものであるかをその技術的課題(発明の目的)とするものであることが認められる。

(2)  次に、先願発明の目的について検討する。

先願発明の要旨(特許請求の範囲)が審決認定のとおりであること(審決の理由の要点2)、同発明と本願発明と対比した場合に審決認定の範囲で一致すること(同3)は前叙のとおり当事者間に争いがなく、この事実と成立に争いのない甲第3号証(先願発明の特許公報)によると、先願発明は、前記非分離型の写真フイルムユニツト(先願発明の明細書ではこれを「写真フイルム単位」という。)を発明の対象とするものであること、このような非分離型の写真フイルムユニツトは積層構造体として露光、現像処理される前のものと露光現像されて写真製品となつた段階のものとは、両支持層に挟まれた中間部の積層構造体内部において露光、現像によつて化学的変化を生ずる点を除いては、写真用積層構造体として一体性を有しており、露光、現像処理の前後において両者区別できないものであること、従つて、先願発明では右のとおり露光、現像処理を経て写真装置から抽き出された写真製品もまた発明の対象に包含されるものであること、このようなことから先願発明は、いかにして露光や現像処理を適確に行うか、またいかにして写真フイルム単位を写真装置から確実に抽き出すかが技術的課題とされているが、これにとどまるものではなく、右写真装置から抽き出された後の写真製品が(1)に認定のとおり変形を生じ易いものであることから、このような不都合を解消しようとすることもまた技術的課題(発明の目的)とされているものであることが認められる。

(3)  そうしてみると、先願発明は本願発明の前記技術的課題をも包含しているものであるというべきであり、この重複する限度において本願発明と先願発明とは技術的課題(発明の目的)を共通にしていることは明らかである。

従つて、先願発明の目的が露光、現像処理及び写真装置からの抽き出しをいかに適正に行うかということだけにとどまることを前提とする原告の審決取消事由1の主張は誤つており採用することができない。

2 構成の相違について

(1)  まず、本願発明の両支持層の構成について検討する。

(1) 前掲本願発明の特許請求の範囲によると、本願発明の写真製品における両支持層は、「水蒸気に対して比較的不透過性であり、かつその間にはさまれた部分に対して該写真製品をとりかこむ雰囲気に関する2つの障壁を形成し、両障壁は湿気にさらされた時同一の特性および挙動を示すことにより、写真製品中の湿気の量や分布状態に関係なく平坦性を保つこと」を構成要件とするものである。

(2) そこで、本願発明が両支持層について右のような構成を採用した技術的意義について考える。

本願明細書(前掲甲第2号証)の発明の詳細な説明の項には、両支持層の構成に関連して前記原告主張の①の記載に引き続いて「その積層品はそれが複数個の異種層で出来ているとしても、全体がサンドイツチ構造に具体化された単一親水性層と考え、この像含有層を水分に対し比較的不浸透性であり、水分によつて非膨潤性の外側支持層の間にサンドイツチにし、像含有層の境界を積層の境界に対し対称な構造にすれば、積層は平らなままでおり、ゆがんだり、しわがよつたり、変形したりしないという発見に関する。(中略)若し、像含有層に対する障壁が対称的であるなら、変形のない製品が得られ、変形に関する限り、像含有層を含む積層の水分浸透度あるいは水分伝達度および膨潤性といつたような要因あるいは製品内の水分含有量や分布といつた要因が実質上無視出来る。」(甲第2号証10欄44行~11欄15行)との記載、「この対称的障壁は比較的吸水の殆んどないことを特徴とする材料で作られる。この最後の意味での対称とは、受像層とそれを取りまく大気との間の障壁が水分に関する限り本質的に同一であり、障壁が水分に応じまた水分の存在下で本質的に同一に反応し挙動することを意味するものと考える。」(同19欄3行~9行)との記載があり、また両支持層に用いる適当な材料として、「塩化ビニル重合体類、エチレングリコールテレフタール酸、例えばポリエチレンテレフタール酸から誘導した重合体フイルムなどのポリエステル類、フエニレンオキサイド重合体類、アクリル類、ポリエチレンおよびポリプロピレン等、」(同17欄15行~21行)が例示され、更に実施例として、両側支持層に「不透明ポリエチレンテレフタレート膜基体」と「透明ポリエチレンテレフタレート膜体」を使用したものが示されている。

右の各記載を基に本願明細書を見ると、本願発明は、前記認定の技術的課題、即ち、両支持層に挟まれた中間部の層における処理液が露光、現像処理後も写真製品内に残留しているためにゆがみ、そり、しわ等の変形を生ずるので、このような変形を受けずに永く保存観賞に耐えるようにしなければならないとの技術的課題を解決するために、中間部の層が元来多層構造のものであり、しかも露光がその一方からのみ行われることからしても両支持層に対して対称的構造をなしていないものであるが、全体としては単一の親水性層であるとしてとらえた上、これに含まれる処理液(水分)を積極的に外部に放出(霧散)させてしまうのではなく、これを中間部の層にとり込んだままとし、このような中間部の層をとり囲む両支持層を外部雰囲気と隔離する意味での障壁としての機能を果させることにより前記のゆがみ、そり、しわ等の変形を防止することができるとの知見に基づいて、(1)に記載のような構成としたものであることが認められる。

(2)  次に、先願発明の両支持層の構成について検討する。

(1) 前記先願発明の特許請求の範囲によると、先願発明の写真フイルム単位における両支持層は「寸法的に安定な層」と「寸法的に安定な透明な層」からなるものであることが認められる。

(2) 右の両支持層のうちの一方が「透明な層」でなければならないことは、両支持層のうち一方の側から露光が行われるものであるから当然のことであり、特許請求の範囲に特段の記載がない本願発明の写真製品においても同様であつて、両発明はこの点で区別することはできない。

しかし、先願発明の支持層である「寸法的に安定な層」とはいかなる構成のものであるかについては、特許請求の範囲中には記載がないので、発明の詳細な説明中の記載によつてこれを解釈しなければならないところ、前掲甲第3号証によると、同明細書の発明の詳細な説明の項には、これを直接明らかにした記載は見当らないが、右構成に関連する記載として原告主張のの記載がある(このことは前叙のとおり当事者間に争いがない。)ほか、両支持層に3-酢酸セルロースを用いたものが唯一の実施例として示されていることが認められる。そして、成立に争いのない乙第1号証によると、これには被告が主張するとおりの水蒸気透過率の記載があることが認められ、これによると、セルローストリアセテート即ち3-酢酸セルロースの水蒸気透過率は、2000(gm/100in.2/24時間/ミル厚、25度c)及び790(gm/m2/24時間/ミリ厚、25度c)であり、本願発明において前記のとおり例示されている塩化ビニル重合体即ちポリ塩化ビニルが硬質の場合0.35~2.0(gm/m2/24時間/ミリ厚、25度c)、非硬質の場合2.0~10.0(gm/m2/24時間/ミリ厚、25度c)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)が1.7~1.8(gm/100in.2/24時間/ミル厚、25度c)であるのに対比すると水蒸気透過率が高い点で格段の差異があることが認められる。

(3) 右の事実からすると、先願発明は、前記認定の技術的課題のうち、写真製品となつた後のゆがみ、そり、しわ等変形を防止するという目的を達成させるためには両支持層に挟まれた中間部の層に滞留する処理液が写真製品に寸法的に悪影響を及ぼすので、これを予め必要最少量にとどめると共に、現像処理後は速かに写真製品外に蒸発(消散)させることが必要であるとの知見に基づいて、(1)に記載のような構成としたものであると認めるのが相当である。

そうすると、先願発明の特許請求の範囲における「寸法的に安定な層」及び「寸法的に安定な透明な層」とは、少くともその一方が水分透過性を有する構成のものであることを意味するものであると解すべきである。

(3)  以上のとおりであるから、本願発明と先願発明とは写真フイルムユニツト(写真フイルム単位)を組成する両支持層の構成が異なるから、両発明はこの点において同一であるとすることはできない。

(4)  被告は、先願発明の明細書における前記の記載は、実施例として3-酢酸セルロースを用いた場合についての記載にとどまる旨主張する。

しかし、右の記載部分は、前掲甲第3号証によつて認められるその前後の記載と合わせ考えれば、被告主張の実施例に記載されているように、処理組成物(処理液)中に造膜性増粘剤を用いることが望ましいが、若し用いない場合には水分をできる限り速かに消散させて乾燥させるために、使用する水の量を必要最少限にすべきである旨を述べているのであり、被告主張の実施例と関連させて先願発明の技術思想を説明しているのであつて、右実施例についてのみ説明した記載ではないと認められる。従つて、被告の右主張は採用できない。

(5)  審決は、「先願発明の明細書をみるに、寸法的に安定な支持層を構成する物質として塩化ビニル重合体、エチレングリコールテレフタール酸から導かれた重合体フイルムなどのポリエステルを用いることもできることが記載され、本願発明においても明細書中に支持層を構成する物質として上記と同様のものが用いられることが記載されている」と認定するところ、前掲甲第3号証によると、先願発明の明細書に右の記載がある(同号証21欄39行~22欄7行)ことが認められ、本願明細書に右の趣旨の記載があることは前認定のとおりである。そして、これらの物質が水蒸気に対して比較的不透過性であることは前認定のとおりである。

審決は、右の各記載に基づき、「先願発明において上記の物質を両支持層として用いた際には、水蒸気に対して比較的不透過性であり、かつその間にはさまれた部分に対して該写真製品をとりかこむ雰囲気に関する2つの障壁を形成し、両障壁は湿気にさらされた時同一の特性及び挙動を示すことにより、写真製品中の湿気の量や分布状態に関係なく平坦性を保つているものと認められる。」と認定し、被告も同趣旨の主張をしている。

しかし、前掲甲第3号証によると、先願発明の明細書には右のような物質を「寸法的に安定な層」及び「寸法的に安定な透明な層」の双方に用いることは記載されていないことが明らかであり、これを双方に用いた場合には、先願発明の明細書について(2)に述べたところ(特にの記載)と矛盾することとなる。そして、先願発明が本願発明とは異なり、両支持層が同一の特性及び挙動を示すことが要件とされているものでないことは前記特許請求の範囲から明らかであるから、一方の支持層に水蒸気に対して比較的不透過性のものが用いられた場合には他方には透過性のものが用いられるものでなければならない。従つて、審決の右認定及び被告の主張は誤りであり、先願発明の明細書の前記記載は、前記(2)、(3)の認定判断をくつがえすに足りない。(なお、被告主張の本願明細書の④の記載が右認定判断を妨げるものでないことは以上に述べたところから明らかである。)

(6)  よつて、原告の審決取消事由2の主張は理由がある。

3そうすると、本願発明は先願発明と同一であるとして特許法39条1項の規定により特許を受けることができないとした審決の判断は、その余の点について検討するまでもなく誤つており、審決は取消を免れない。

3よつて、原告の本訴請求を認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。

(瀧川叡一 清野寛甫 木下順太郎)

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